光学系の設計において、レンズは光の位相・振幅を制御するための最も基本的な素子です。本記事では、単レンズの結像理論から、高度な光学設計で不可欠となる「収差」の概念、および特殊レンズの分類について技術的な観点から詳説します。
1. レンズの物理的定義と結像公式
レンズは、2つの屈折面を持ち、光の屈折(Refraction)を利用して光束を収束または発散させる光学素子です。
・薄肉レンズの近似(Thin Lens Approximation)
レンズの厚みが焦点距離に対して十分に小さいと仮定した場合、以下のガウスの結像公式が成立します。
\(\frac{1}{s} + \frac{1}{s’} = \frac{1}{f} \)
(s: 物体距離、s’: 像距離、f: 焦点距離)
・レンズメーカーの公式(Lens Maker’s Formula)
焦点距離 \(f\) は、レンズの屈折率 \(n\) と、各面の曲率半径 \(R_1, R_2\) によって決定されます。
\(\frac{1}{f} = (n – 1) \left( \frac{1}{R_1} – \frac{1}{R_2} + \frac{(n-1)d}{nR_1 R_2} \right) \)
(d: レンズの厚み。厚みを無視できる場合は第3項を省略します)
2. 形状による基本分類
屈折面の曲率構成により、レンズは大きく2つのカテゴリーに分類されます。
・凸レンズ(Convex Lens / Positive Lens)
中心部が周辺部より厚く、入射した平行光線を一点(焦点)に収束させます。実像を結像させる能力を持ちます。
・平凸(Plano-Convex)
・両凸(Bi-Convex)
・メニスカス凸(Positive Meniscus)
・凹レンズ(Concave Lens / Negative Lens)
中心部が周辺部より薄く、入射光を発散させます。単独では実像を結ばず、虚像を形成します。系の合成焦点距離を伸ばす目的や、収差補正に用いられます。
・平凹(Plano-Concave)
・両凹(Bi-Concave)
・メニスカス凹(Negative Meniscus)
3. 幾何収差(Seidel Aberrations)
理想的なレンズでは光は一点に集まりますが、実際の球面レンズでは「収差」と呼ばれる結像の乱れが発生します。高度な光学設計では、これらをいかに制御するかが重要です。
・球面収差(Spherical Aberration)
光軸からの距離によって焦点位置がずれる現象。大口径レンズほど顕著になります。
・コマ収差(Coma)
軸外光束が点ではなく、彗星の尾のような形状に結像する現象。
・非点収差(Astigmatism)
垂直方向と水平方向の光線でピント位置が一致しない現象。
・像面湾曲(Field Curvature)
平坦な物体が、平面ではなく湾曲した像面に結像する現象。
・歪曲収差(Distortion)
倍率が像高によって異なるため、像が樽型や糸巻き型に歪む現象。
4. 色収差(Chromatic Aberration)
材料の屈折率が波長によって異なる(分散)ために生じる収差です。
・軸上色収差
波長ごとに光軸上の焦点位置が前後する現象。
・倍率色収差
波長ごとに結像倍率が異なるため、像の周辺部で色ズレが生じる現象。
これらは、異なる分散特性を持つガラス材を組み合わせた「アクロマート(2枚組)」や「アポクロマート(3枚組)」レンズによって補正されます。
5. 特殊レンズと高度な応用
特定の用途のために設計された高度なレンズ群です。
・非球面レンズ(Aspheric Lens)
面形状を球面から意図的に歪ませることで、単一のレンズで球面収差を劇的に低減します。光学系の軽量化・高性能化に不可欠です。
・フレネルレンズ(Fresnel Lens)
レンズの厚みを同心円状の溝として分割・配置した形状です。大口径ながら極めて薄く軽量に作れるため、照明系や受光系に利用されます。
・GRINレンズ(Gradient Index Lens)
素材内部に屈折率分布を持たせたレンズ。光ファイバーとの結合や、超小型カメラの対物レンズに用いられます。
まとめ
レンズの選定と設計においては、単なる焦点距離の計算だけでなく、使用波長帯域や許容される収差量、物理的なスペース制約を総合的に判断する必要があります。
・ガウスの公式による基本設計
・ザイデル収差および色収差の補正
・用途に応じた非球面や特殊材の検討
これらの要素を理解することで、より高度な光学システムの構築が可能となります。
