光ファイバーの伝送理論:構造と物理的特性の技術解説
現代の高帯域・低損失通信ネットワークの基幹を成す光ファイバー。本記事では、誘電体導波路としての物理的構造、全反射の原理、モード理論、および伝送損失・分散といった高度な技術要素について詳説します。
1. 光ファイバーの物理的定義
光ファイバーは、電磁波の一種である光信号を伝送するための誘電体導波路です。主成分として高純度の石英(SiO2)が用いられ、電気信号を光信号に変換して伝送することで、電磁干渉(EMI)を受けない超高速・大容量通信を実現しています。
2. 構造と屈折率プロファイル
光ファイバーは、中心部から外側にかけて異なる光学的性質を持つ多層構造で構成されています。
・コア(Core)
信号光を閉じ込める中心領域です。クラッドよりも高い屈折率を持ちます。
・クラッド(Cladding)
コアの周囲を覆う層です。コアとの屈折率差を利用して光を内部に閉じ込めます。
・被覆(Buffer Coating)
外部の応力や湿気から石英を保護する樹脂層です。
光通信では、コアとクラッドの屈折率分布(屈折率プロファイル)が伝送特性を決定する重要な設計因子となります。
3. 全反射と導波原理
光ファイバー内での光の伝搬は、界面における「全反射(Total Internal Reflection)」に基づいています。
・全反射の条件
光が屈折率の高い媒体(コア:n1)から低い媒体(クラッド:n2)へ入射する際、入射角がある一定の角度(臨界角)を超えると、光は境界を透過せずにすべて反射されます。
・スネルの法則と臨界角
臨界角 \(\theta_c\) は以下の式で定義されます。
\(\theta_c = \arcsin \left( \frac{n_2}{n_1} \right)\)
この現象により、光は減衰を最小限に抑えながら導波路内に閉じ込められ、ファイバーの形状に沿って伝搬します。
4. モード理論による分類
ファイバー内を伝搬可能な光の経路(定在波のパターン)を「モード」と呼びます。これはコア径と波長の関係によって決定されます。
・シングルモードファイバー(SMF)
コア径を数マイクロメートル(約9μm)まで縮小し、基本モードのみを伝搬させる形式です。モード間分散が発生しないため、長距離・大容量通信(基幹網)の標準として採用されています。
・マルチモードファイバー(MMF)
コア径が50μm〜62.5μmと大きく、複数のモードが同時に伝搬します。接続が容易で安価な光源(VCSEL等)が使用できるため、データセンター内などの短距離通信に適しています。
5. 信号劣化要因:損失と分散
実用上の設計において最も重要となるのが、信号の劣化を制御することです。
・伝送損失(Attenuation)
距離に伴う光強度の減少。主な原因は、石英分子による「レイリー散乱」、水酸基(OH基)などによる「吸収損失」、およびファイバーの曲げによる「放射損失」です。
・分散(Dispersion)
光パルスが伝搬中に時間軸方向に広がる現象。
・モード分散:マルチモード特有の現象で、経路差によりパルスが広がる。
・波長分散:材料の屈折率が波長に依存するために発生する「材料分散」と、導波路構造に起因する「構造分散」の合計。
・偏波モード分散(PMD):ファイバーのわずかな歪みにより、偏波面ごとの伝搬速度に差が生じる現象。
まとめ
光ファイバー通信は、材料工学と電磁気学の高度な融合によって成り立っています。
・屈折率制御による誘電体導波構造
・全反射による低損失導波
・シングルモード化による分散の最小化
これらの物理的特性を最適化することで、テラビット級の超高速通信が支えられています。
